「井ノ原くん、へーき?」
ヘルメットを脱ぎながら尋ねる、ごうの質問には答えずに、井ノ原はよろよろと機体を離れる。地面にぺたりと座り込んだ。
「酔っちゃったんでしょ?」
ごうは井ノ原のぶんのヘルメットとゴーグルをもってやりながら、
「初めてだからしょうがないよ。あ、でも吐くなら土のとこにしてね、コンクリだと掃除が大変だから」
と淡々と言った。
井ノ原はゆっくり立ち上がって、素直に雑草の生える倉庫裏-ごうの言う、土のところ-へ歩き出した。
井ノ原が倉庫内に戻ると、ごうは一人でコーヒーを飲んでいた。ミルクをたっぷり入れたもので、コーヒーというよりは、ほぼ牛乳と呼んだほうが正しい。
「お前いっつもあんなの乗ってんのな、ちょっと尊敬。出会って以来はじめての尊敬」
ふふ、とごうは笑い、少しの後に言う。
「何で俺があれに乗ってるか知ってる」
「ん、知らない」
たしかに荷物を運んでる様子はなさそうだった。井ノ原は首をかしげる。機体から言えばどちらかというと戦闘機に近いが、まさか戦うわけじゃないだろう。
自分の分のほぼ牛乳コーヒーも作ろうと、井ノ原がテーブルのマグカップを手に取る。少々ほこりがかぶっているのが気になったが、でも仕方ないので手で払った。
「偵察だって。それから、カモフラージュだって」
「カモフラージュ?偵察ってなんの?」
井ノ原はポットをもちあげたまま手を止める。
「言っちゃダメなんだけど……でもまあ、隣の国とかさあ。戦争してるところあるでしょ。」
ああ。と、井ノ原はため息のような返事をした。少し体が重くなった気がした。
「ここも、近いから。なんかあったらヤバイし。
でも、だからいつ撃ち落されてもしょうがない。
でもそれは本当はどうでもよくって、それよりもおれが、間接的にでも、誰かの命を奪ってるかもしれないってこと……」
井ノ原は何もいえなくなった。聴かなきゃいけない、と思うと同時に、聴きたくないと思った。そんな話を、ごうのくちから聴きたくない。ごうにそんな話をさせたくない。
「おれ、それかんがえると、ぜんぜんねむれなくなる」
そう言った剛はうなだれたまま、いすごとくるりと井ノ原に背を向けた。小さい肩が目に入る。
こいつ、こんなにちいさかったっけ、と井ノ原はぼんやり思った。もともと背は低いけれど、いまの剛は小さく、か細い存在のように思えた。剛はその細い肩で、腕で、いつもひとりきりであのでかい、きらきら光る機体をそうじゅうしているのだ、と井ノ原は思った。
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なんか 一年以上前に書いたやつがでてきた・・
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