ロッカーに収める前に、トレンチコートの背中で結んだひもを結び直す。ゆるゆるととれかけたそれは午後からの雨ですっかり湿ってしまっていた。
これから明日にかけてますます雨は強まる。傘を差してもどうせぬれる。きっと泣いても分からない、と思った。
「今日、夜勤か」
医局に入るとあの内科医が振り返って言った。手元を見ると、カルテを読んでいるようだった。おれは、ああ、とだけ言って、内科医はそのまま俺に背中を向けた。
真ん中分けの席には分厚い本が開いたままになっている、こいつは座学が好きなのだ。
いっちょまえにタンブラーにはいったコーヒーが残っていて、机から奪って一口飲んだ。
「あまっ」
俺はタンブラーを机に戻してソファに座る。あさだはいない。アル中もいない。他に誰もいない。
しいん、と静まりかえった部屋で、内科医のめくる紙の音だけが響いている気がした。
「あのさあ」
「何だ」
「あんたも、泣きたくなったりすることあんの?」
ふじよしは少しだけ黙ってから、
「まあな」
と言って、こっちを見た。回転式のいすが、きい、と音を立てた。
「お前はあるのか?」
「まあ、ねー、生きてると、いろいろと?」
思わず目をそらす。
この内科医はいつも俺を目の敵にしているのだ。
なにをいってんだおれは、と思い、わざとらしく背伸びをして、
「患者の様子でも見てくっかなー!」
もう俺の方を見ていない、内科医の背中は笑ってるように見えて、なんだか少し悔しいと思った。
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これは……
どうなんだ……
すみませんでした……………土下座。
いちおう 外/山 と 藤/吉の 心の交流?です…(笑)
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